「いつものやつね」

子供のころ、両親が営む自家焙煎珈琲店の店頭で、母が配達に出なければいけない間、店番を任されることがありました。

当時、私はそれがすごく嫌だった。

その理由は、来店されるお客さまのほとんどが「いつものやつね」と言うから。

私「いつものやつって何ですか?」

お客さま「いつもおかあちゃん任せてるから名前は覚えてないねん」

私「どの辺に並んでるとかわかりますか?」

お客さま「いや~、わからへん。おかあちゃん任やったら言わんでもわかってるんやけどなぁ」

お店があったのは大阪の下町ど真ん中。

お客さまは大抵急いでいる方で、すこし立腹したような、残念な顔で帰っていかれました。

私が配達から戻ってきた母に、

「自分の飲むコーヒーぐらい名前覚えとくもんちゃうの?私のせいと違うし」

とプンプン怒ると、母は、

「おかあさんが全部覚えてるからなぁ」と笑っていました。

 

 

でも自分のお店を持つようになった今、 両親に頭の下がる思いをしています。

母がお客さまに対して行ってきたことは、簡単にマネのできない素晴らしいことだったんだと。

今のように便利な顧客管理ツールなんて無くても、お客さまの好みは店側がすべて把握している。

だから、お客さまは安心して店側にすべて任せることができる。

お客さまに喜んでいただけることで、お店側ももっと良いサービスをと思い、心から感謝をする。

そんな商いの一番大切な『肝』を、知らずしらず、両親から学んできた気がしています。

 

 

Coffee myselfも、3月で1周年を迎えました。

おかげ様で、お客さまに「いつものやつね」と言っていただけることも多くなってきました。

その言葉は私にとっては特別なものです。

毎回そのお声かけに、この気持ちを忘れることなく、でも気張ることなく、お店作りをしていきたい。

この日を迎えることができたことを深く深く感謝します。

今日は一人静かに祝杯をあげよう。